大成建設株式会社、北海道大学、苫小牧高等専門学校との共働研究の開始について

2021.4.22

 昨日(4月21日)、大成建設株式会社から、当社ならびに北海道大学(田中孝之教授)、苫小牧工業高等専門学校(土谷圭央助教)と建設現場に「軽労化」の考え方を建設作業現場に導入するための共働研究を実施するとプレスリリースがありました。

総務省「労働力調査」を基に国土交通省で算出した資料(下表)によれば、建設業界の少子高齢化は他産業に先んじて進行しており、高齢化によって離職する就業者が多く、建設業就業者ではピーク時の平成9年と比較して、平成28年には28%減の492万人となっています。技術者、技能労働者の減少も著しく、技能労働者については60歳以上の技能者が全体の25%を占めており、今後、10年程度でその大半が引退されることが予測されており、建設業界では労働力の確保と技能の伝承が急務となっています。

 

 

若年層の入職者を増やし、熟達者から効率的かつ速やかに技能を伝承する一方で、熟達した技能を有する高年齢労働者の離職を抑制することが重要になります。加齢とともに体力が低下するのは必然ですが、体力が低下することで、腰痛症の発症や転倒による怪我が発生しやすくなります。体力の低下は高年齢労働者の労働に対する自信や意欲を失わせることにもなるので、職場では、「労災リスクの不安要因を取り除き、安全、安心な労働環境の提供」が急務になります。

具体的には、作業をそれを実施するのに必要な体力レベル別に分類(この作業はきついのか)したり、作業で使う道具が体力に見合ったものなのか、そして、労働者自身の体力を測定し、自覚してもらうことになります。また、作業によって身体にかかる負担や疲労を軽減しつつ、体力を維持、増進して労働の持続可能性を高める「軽労化」の考え方がとても重要になります。

厚生労働省では、この4月に施行された定年の延長などを定めた改正高年齢者雇用安定法に合わせて、昨年度から「高年齢労働者安全衛生対策実証等事業」を実施しています。この事業は普及が進んでいない高年齢労働者安全衛生対策について、その効果を確かめ、公表することにより、働く高齢者の労働災害を減少させることを目的とするものです。

当社が開発したスマートスーツ(ライト・プラス)もこの事業に採択され、第三者機関による実証試験を経て、過日、実証報告書が公開されました。この報告書では、「(スマートスーツの)弾性体により腰部の負担を低減させることで、腰痛による労働災害を低下させる対策である」と明記されています。これまでもスマートスーツは、北海道大学の田中孝之研究室において様々な手法で実証試験を実施してきてその機能や効果を確認してきましたが、今回の厚生労働省の実証事業で、改めてその効果が示されたことになります。

一方で、スマートスーツの効果は得られたとしても、その着用の手間や若干の締め付けによる不快感などによって作業者が着用を嫌がるケースが多々あります。スマートスーツの機能効果等の客観評価と労働者の主観的な評価のトレードオフにより、長期的な着用ができずスマートスーツの効果が十分に得られていないケースもよく見られます。

スマートスーツに限らず、作業現場の安全衛生に資する機器である、ヘルメットや安全靴、安全帯などもかつては着用が義務付けられたものではありませんでしたが、職場の安全意識の高まりとともに、評価のトレードオフが変化し、また、作業者も着用に慣れるなどすることで、職場の安全衛生対策として定着してきたという経緯があります。

今回の大成建設株式会社、北海道大学、苫小牧工業高等専門学校との共同研究では、スマートスーツの現場へのスムーズな導入を図るために、下記に示すような調査研究を実施することになりました。

 

      1. 建設作業員の労災リスク調査
        建設現場における腰部負担と腰痛重症度との関連性を把握し、リスク要因を分析
      2. 建設作業員の身体能力評価と安全意識改革
        体力測定やウエアラブル・センサによる身体能力評価とデータ分析
      3. 建設作業員用「スマートスーツ」の開発
        建設作業員への作業環境に応じた用途別スーツ、機能の開発
      4. 技術伝承と入職促進のためのウエアラブル・マニュアルの開発
        建設作業員の処遇改善や安全衛生対策に向けたアシスト技術の有効活用を検討

 

このような取り組みが必要なのは、建設業界だけではなく、少子高齢化が進行する国内の様々な業種、業態で対応が急務とされていることだと考えています。研究成果やスマートスーツ等の軽労化ツールの職場導入について、新たな知見を得て広く普及し、高齢労働者が安全に安心して働ける職場づくりと、高年齢労働者の労働持続可能性の向上に貢献したいと考えています。